ISUZU
いすゞ
1993年に乗用車から撤退してしまったが、いすゞというブランドは、いくつかのモデル名とともに、クルマ趣味人にとっては忘れることのできないものだ。いうまでもなくいすゞ・ベレットGT/GTR、いすゞ117クーペはその双璧というもので、バスや消防車好きにはいすゞTX/BXなどという、お気に入りの名車があったりそれぞれに大きな存在だ。
わが国の自動車メーカーとして長い歴史を持ち、戦後は英国ヒルマン車をノックダウン生産するところから、ベレル、ベレット、フローリアン、ジェミニ、アスカといったモデルを送り出す。いすゞ117クーペやピアッツァは、フローリアン、ジェミニのウロアを利用した派生モデルだ。世に出なかったけれど、いすゞMX1600というミドシップ・スポーツカーはいま見ても欲しくなるスペック。それに象徴されるように、かっちりとしたつくりと技術力がいすゞの魅力だった。
■いすゞ117クーペ/Isuzu 117 coupe
*ISUZU CLASSIC*
いすゞ117クーペはその存在感において、わが国の自動車史においてもひとつのポジションを得ている。イタリアのカロッツェリアでデザインされた美しいボディをそのまま生産モデルとして手づくりする。そのために、デザイナーとは別にコーチビルダーを日本に呼び寄せて工法を学んだ、などという話は発展途上にあったわが国産メーカーの意欲を感じさせるものだ。
そもそもカロッツェリアとはクルマをデザインするだけでなく、そのデザインをそっくりクルマとしてつくり上げてしまう能力を持っていた。だから、ショウなどに展示されるプロトタイプはもとより、ときに生産までを受け持ったりしたりもした。デザイナーのアイディアをきっちり具現化して、ピュアでスタイリッシュな「作品」というようなショウモデルは、そうしたカロッツェリアのビルダー部門の職人技のみせどころ、というものだ。
閑話休題、いすゞ117クーペは「いいクルマ」であった。とにかく当時のできることを惜しみなく注ぎ込んでつくられたクルマ。商品としてのクルマではなくて、モノづくりを優先してつくられた印象が漂うからこそ、貴重なものとして映るのだ。われわれが心惹かれるクルマ、そのキイワードがそこにあることをいすゞ117クーペに感じるのだ。