M.G.
MG
なにはともあれスポーツカーの典型というようなものだから、そのテイストはいまでも変わらぬひとつの「お手本」として大いに尊重されるべきものといえる。MGAの前には「Tシリーズ」と呼ばれる古典的味わいの一連のスポーツカー、のちには「MG」のネームヴァリウを活かして、MGFやMG RV8といったスポーツカーを送り出したりしている。 MGは、戦前のうちにモーリス社に吸収されその一ブランドとなり、さらに1952年~BMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレイション)社、1967年~BL(ブリティッシュ・レイランド)社、その後もオースティン・ローヴァ社、ローヴァ社と合併、変更を繰り返し、BMW傘下になったのち、MGはブランドだけがひとり歩きしている。
トラディショナルなスポーツカー・テイストなどということばを使うとき、そのテイストとして頭に浮かぶのは、MGB。旧き佳き英国スポーツカー。前モデルのMG Aのあとを継ぐが、たとえばシャシーとボディをと一体にしたモノコック構造を採り入れるなどずいぶんと近代化された。1962年に登場して1980年まで、50万台以上を生産し、それこそ英国スポーツカーの代表として世界中で親しまれたものだ。 正しくはM.G. MGB、つまりブランド名がM.G.でモデル名がMGBと、いかにも英国らしい偏屈さがあったりして、それも密かな拘りになったりするようだが、乗り味は実にシンプル。すべてにスーパーというわけではないけれど、五感に対して実に忠実に走り、曲がり、停まってくれる。スタイリングも、特別エキセントリックな部分もなく、スポーツカーらしいものとして誰もが納得するような。それだからこそ世界であれだけの数、売れたのだ。
英国スポーツカーの典型、すなわちオープン2シーターとして発売当初から人気を得たMGBなのだが、それに1965年に加えられた新たなモデルがMGB GTだ。爽快この上ないオープン・エア・モータリングを捨ててまで、ちょっと側に置いておきたくなるようなスタイリングのクーペにモディファイされたMGB。そのファストバック・スタイルは、のちのちの多くのクルマに影響を与えたにちがいない。たとえば、わが国のフェアレディがフェアレディZに変身したのを、ひと足早く実現してみせた、というような、新しいスポーツカーの形を示唆したようなものでもあったのだ。 当時はあまり表立ってはいなかったが、スタイリングにはイタリアのカロッツェリア・ピニンファリーナが関与したという。なるほど、いまみても美しい。ホンダS600/S800、BMW Z3クーペなど、オープン・ベースのクーペには傑作が少なくない。MGBでなく敢えてMGB GTという「趣味人的選択」には大いに共感する。 の要るクルマ」と形容したのはウソではない、と実感したのだった。