54)デイムラー・ダブル・シックス

Jaguar

ジャガー

ジャガーは戦後間もなく送り出したジャガーXKシリーズ・スポーツカーの成功で、その基礎をつくり、われわれ世代には上質で英国的なサルーン、スポーツカー・ブランドとして認識されていた。ウッドと本革のインテリア、という言葉に象徴される英国車らしさは、ジャガーのテイストとも共通するものだ。
 ずいぶん前のことだが、ジャガーの工場と工場に併設されている博物館を見学したことがある。クラフツマンシップ、それこそレザーとウッドの使い方など、予想していた通りの上質のつくり方が解った。ジャガーXタイプを1週間にわたって駆り出し、英国取材のアシに使わせてもらったりもした。やはり英国でのジャガーは相応のステイタスがあり、誇りでもあることを感じた。やはりジャガーはなくなってもらっては困るブランドにちがいない。
■デイムラー・ダブル・シックス/Daimler Double-Six
*JAGUAR CLASSIC*

 なにを隠そう、1993年にデイムラー・ダブル・シックスが生産を終えたとき、どうしても経験しておきたくて手に入れた。いままでで一番高価な買い物、であった。イノウエにとって「バブル」といえば、このダブル・シックスだったのかもしれない、と思い返してそんな気がしたりしている。
 しかし、ダブル・シックスは濃密な時間を提供してくれた。走っていると、クルマがひたひたと語りかけてくるのである。まさしく「思考の場」にもなってくれた。レザーの香りに囲まれて、ほとんど往復運動の感じられない、そう、シルクの回転をするV12気筒エンジンを体感できるシアワセをつくづく感じ入っていた。いくつものV12気筒を経験したけれど、ダブル・シックスのエンジンほど滑らかなものはない。それを、1970年代早々につくりあげていたことにも感動する。
 ただ、目に見えて減っていくようなフュエル・メーターの針は、貧乏性のイノウエには耐えきれなかったようで、ついに持ちきれなくなって友人のもとへと嫁がせた。いま以って、街で出逢うと嫉妬してしまうクルマ。「デイ様」は永遠の憧れなのだ。
(2015-01-28追加)

 さてさてジャガー「Mk2」のひとつとして、ジャガー340サルーンを撮影した。ベージュのボディカラーも英国的でしっとりとしていたが、全体のつくり、たとえばウイングの峰にあるサイドランプ上の小さなモールや後ドアの切り欠き部分の丸みなど、細かい部分のひとつひとつに「綺麗だなあ」と嘆息がつづいた。もちろんドアを開けば磨き上げられたウッドと本革のインテリア、その佇まいにすっかり虜になってしまうのだった

ヒイキのイケン:

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